桜花雑貨店

本とか音楽とか考えたこととか。

野球嫌いだった私が、プロ野球観戦に行った話

子どもの頃から、野球が嫌いだった。

野球のテレビ中継が延長して観たい番組の録画に失敗するというありがちな恨みはもちろん、野球好きな人たちの「野球のルールくらい知ってて当たり前でしょ?」と言わんばかりの、いかにも自分たちがメジャーな存在だと信じて疑わない態度がとても嫌いだった。中高大学時代の体育やスポーツの時間、教師が何のルール説明もなしにいきなりソフトボールやらキックベースやらをやると言い出した時には本当に辟易した。何でみんながみんな野球好きで、ルールを知ってると思ってるんだ、と。打ったらどうすればいいのか、何をしたらアウトになるのか、そんなこともわからない人だっているのに。

私は野球のルールが全く分からなかった。親も野球ファンではなく、野球に親しむ機会が全くなかった。そもそもスポーツが苦手だった。

中学時代、同じ学校の野球部の男子たちとウマが合わなかったということもある。

そんな風に、野球に対する嫌な思いが長年蓄積し熟成されていった結果、気がつけば野球が大嫌いな人間となっていた。

(ここまで野球をけなしてしまって、野球好きの方には本当に申し訳ない。)

 

そんな私に、転機が訪れた。

簡単に言ってしまえば、野球好きな人と付き合い始めた、ということになる。

特に今の彼氏は小学生からずっと野球部、社会人になってからも草野球チームに入り、週末はほぼ毎週バッティングセンターに通うような生粋の野球大好きマンなのだ。

そんな野球大好きマンと付き合い始めたわけだが、当初は若干揺れ動いた。好きな人と、嫌いな野球の組み合わせ。けれどもう大人だし、そんなことで人を拒絶したり差別したりしたくなかった。だから、野球の存在には目を瞑ることにしたのだ。何より、好きな人の好きなことを、自分の価値観だけで否定したくなかった。

そんな葛藤がありつつも彼と付き合い始め、しばらくすると私の野球嫌いは徐々に軟化傾向を見せ始めた。彼に付き添ってバッティングセンターに通い、家ではプロ野球中継を観て、スポーツショップの野球コーナーを一緒にぐるぐる見て回った。

野球中継を一緒に観ながら、「◯◯ってなに?」「今のはどうしてダメなの?」などと本当に初歩的な質問を繰り返す私に、彼は全く嫌がることなく一つ一つ説明してくれた。そうしてルールがわかってくると、少しずつ野球中継を観ることが楽しくなってきた。

何をどうしたらアウトなのか、ストライクとボールの違いは何なのか、打順はどうやって決まっているのか…

彼がちゃんと教えてくれたおかげで、私はいつの間にか野球を楽しめるようになっていた。あんなに嫌いだったのに。

今までこんな風に、一からルールや楽しみ方を教わったことなんてなかった。もっと早く、そういう機会を得られたのなら、私も野球嫌いにはならなかったのかもしれない。もちろん独学で学ぶこともできたのだろうけど。

野球でも音楽でも読書でも、どんなものでもその楽しみ方をきちんと教わりながらその世界を知っていく、ということはすごく大事なんだと気付いた。その世界を楽しむためのコツみたいなものを伝授してもらって初めて、世界は色鮮やかに見えるのかもしれない。

今まで、私にとっての野球は、ぼんやりとしたモノクロの世界だったけど、今でははっきりとした鮮やかな世界になっている。こんな風になるなんて全然思っていなかった。彼がいなかったら、私はずっと野球が嫌いだっただろう。

特に学生時代までの私は、本当に自分が興味あることにしか関心を示さなかった。だけどここ数年は、徐々にそれまで興味がなかったものにも目を向けるようになっていた。自分から何かを知ろうと歩み寄れば、世界はちゃんと開いていてくれるのだ。今まで本当にもったいないことをしていたな、と思う。

 

そして、先日初めてプロ野球観戦に行った。私が希望したのだ。以前観に行ったことがあるという彼に、「連れて行ってほしい」と頼んだのだ。自分が野球を観に行くなんて、なんだかとても変な感じがした。

けれど、そうして見た東京ドームの中の世界は、とても色鮮やかに、輝いて見えた。

 

ルールさえ知らなかった自分が、今では実況中継もなしに、目の前で繰り広げられる攻防に一喜一憂している。たまに彼に問いかけたりもしたけれど、おおよそ自分で状況が理解できた。世界が広がるって素晴らしいな、と思った。

 

試合は負けてしまったけれど、全ての選手たちに拍手を送りたい気分だった。とても楽しいひとときだった。来て良かった、また来たいと心から思った。

こうやって好きなものをどんどん増やしていけば、人生はもっと楽しくなるんじゃないかと思う。これから私は何を好きになるのだろう。本当に楽しみだ。